
2024年元日に発生した能登半島地震。
被災地・穴水で、多職種チーム「KISA2隊」とともに活動した薬剤師の今西先生と今堀先生に、当時の思いと課題、そしてこれからの災害支援のあり方について、KISA2隊大阪の小林隊長と共ににお話を伺いました。

今西 孝至
一般社団法人京都府薬剤師会
京都薬科大学臨床薬学教育研究センター

今堀 翔太
一般社団法人京都府薬剤師会
壬生こと薬局
発災直前の学びが、KISA2隊の行動を後押しした
小林隊長は発災直前をこう振り返る。
「実は発災の約2週間前まで、DMATの先生が3回シリーズで災害支援のオンライン勉強会を開いてくれていたんです。KISA2隊も“これから災害支援を本格化しよう”と言っていた矢先に地震が起きました」
発災直後にKISA2隊は、急遽オンラインでメンバーを募集。
100名以上が集まり、多職種チームとして支援準備を開始し、1月8日には穴水へ入り、施設支援を中心にニーズ調査を開始。
当初は混乱も大きかったが、徐々に役割分担が明確になっていったという。
「僕たちもついていっていいですか?」
今西先生と今堀先生が穴水に入ったのは1月22日で、日本薬剤師会の要請による、京都府薬剤師会からの第二陣としての派遣だった。
そして翌日から、KISA2隊と活動をともにした。
「僕たちは基本的に単独行動でした。避難所の公衆衛生管理や復興支援が主な役割でした。
当初、薬剤師は包括支援センター内の診療所を拠点に待機していた。」
その時について小林隊長はこう語る。
「本部では専門職が待機しているのに、現場にはニーズがある。そのギャップがもったいないと感じていました。そんな時に薬剤師の先生が『僕たちもついて行っていいですか』と声をかけてくれた。断る理由はありませんでした」
KISA2隊はもともと多職種チーム。
医師・看護師・リハ職などと横並びで動く体制だったため、即座に同行が決まった。


施設で目にした“山のような一包化薬”
施設では、大量に届いた一包化薬が未整理のまま積み上がっていた。
看護師は被災で人手不足。薬剤管理まで手が回らない状況だった。
今堀先生は語る。
「薬局で日常的にやっている業務の延長でした。災害時でも“いつも通り”の薬剤管理が求められていると実感しました」
整理が進んだことで、降圧薬の調整や併用確認など、診察の場でリアルタイムに連携が行われた。
また、今堀先生が最も印象に残っているのは、施設スタッフの言葉だった。
「薬剤師さんが来てくれた!」
スタッフ自身も被災しながら、入居者の日常を守ろうと懸命だった。
医務室はいつも通りの姿を保っていた。
「自分も“いつも通り”の仕事をしようと思いました」
薬をきっかけに生活全体の相談を受けることもあり、薬剤師が復興期に果たせる役割の広がりを実感したという。

診察の横に薬剤師がいるという安心感
今回浮き彫りになったのは、派遣形態によって異なる薬剤師の役割である。
今回の災害現場には
- 日本薬剤師会
- 日本DMAT
- 日本医師会災害医療チーム(JMAT)
などの複数の枠組みが存在すると、今西先生は説明する。
「大きな組織では薬剤師はロジスティクスに入ることが多い。その場合、主に医薬品管理等の後方支援が担当になります。
現在、厚生労働省は「災害薬事コーディネーター」の育成も進めており、医薬品供給体制の強化が図られている。
小林隊長はこう提言する。
「ロジスティクスに入ることも大切ですが、本来の薬剤アセスメント能力をもっと前線で生かせるはず。
医師と同行し、事前に処方の問題点を抽出してもらえたら、災害時でも質の高い医療が提供できる」
また、施設診療に同行した際、小林隊長は大きな手応えを感じたという。
「血圧が下がりすぎている患者さんがいて、すぐ横で薬剤師と相談できた。減薬の判断や併用確認がその場でできるのは本当にありがたい」
災害時は多施設を短時間で回るため、相談できる専門職が近くにいると心強いという。
「薬剤師が一緒にアセスメントしてくれると、診療の質を担保できる。災害時でも薬剤師の臨床力が必要です」
災害現場での課題は『ニーズをどう可視化するか』
今回の支援では、学校薬剤師の知見も生かされた。
薬剤師は二酸化炭素濃度の測定や換気管理、感染対策など、公衆衛生面でも活動した。
避難所では密集により空気環境が悪化しやすく、ノロウイルス対策も重要となる。
今西先生が当時の環境状況を語る。
「寒くても換気が必要でした。トイレの消毒など、感染拡大を防ぐ役割も大事でした」
災害は急性期医療に注目が集まりがちだが、亜急性期以降は生活環境の維持が特に重要になる。

今回うまく機能した背景には、KISA2隊が日頃から多職種で活動していたことがあると考える。
今西先生はこう話してくれた。
「大きな組織と違い、フラットで臨機応変に動けた。それが功を奏した」
一方で課題も見えた。
- 派遣が短期間(3日間)で継続支援が難しい
- 事前情報が少なく、現場で手探りになる
- 施設支援は支援団体の枠外になりやすい
小林隊長は強調する。
「鍵はBCP(事業継続計画)。地域や多職種でニーズ把握の仕組みを整得ることが大事。困っている人の情報が事前に整理されていることで、待機時間が減少し、迅速に動けるはずです。」
災害時こそ、平時のスキルを
かつては災害現場で十分な受け入れ体制ができていなかった薬剤師の存在。
しかし今は確実に変化している。
「災害時こそ、普段のスキルを発揮できる形が理想」
医師と薬剤師が対等に協働し、薬剤管理・生活支援・環境整備まで包括的に担う。
今回の穴水での経験は、その可能性を示した。
最後に今堀先生は語った。
「災害は起きてほしくない。でも、もし起きた時には、薬局薬剤師も施設や在宅の患者さんを支えられることを伝えていきたい」
多職種連携の力が、被災地の“日常”を守る。
能登での実践は、次の災害への大きな示唆を私たちに残している。

令和6年能登半島地震で被災した特別養護老人ホームにおいてKISA2隊に薬剤師チームが同行して実施した災害支援活動





