患者さん、医療従事者どちらにも役に立つ存在でありたい – 中川卯衣 医師インタビュー
歌手の「さだまさし」さんをきっかけにKISA2隊に入隊した中川医師。自らコロナに感染したことで電脳KISA2隊(オンライン診療)を発足し、隊長を務めました。
医師として活躍する傍ら、現在は丹波市で教育委員も務められており、子どもの教育に力を入れているという中川医師にお話を伺いました。
3代に渡って兵庫県丹波市の地域医療を行っている中川内科医院を拠点に、尼崎市の大隅病院の外来や、今年(2023年)から、子どもたちの健やかな成長を見守る立場として丹波市教育委員も従事。
AMDA兵庫で災害医療も精力的に活動中。来るべき南海トラフ地震に対する備えとして看護学生に向けて勉強会の開催や、トルコ・シリア地震の後方支援にも貢献。モットーは「0歳から100歳まで診るママさんドクター」。
丹波新聞に2019年からコラム「ママちゃん先生の診察室から」を月1連載中。
KISA2隊との出会いは「さだまさし」さん
KISA2隊との出会いは、本当に偶然です。さだまさしさんのテレビ番組を見ていた時、KISA2隊という言葉を聞いて「KISA2隊って何?」と気になったことから始まりました。
元々、さだまさしさんが立ち上げた「風に立つライオン基金」の災害医療支援ボランティア「風の団」に入っていて、何かできないかなと思っていたところだったのです。
そのタイミングで番組を見て、翌日、風に立つライオン基金さんに連絡したら、すぐお返事があり、その週のうちに奥先生(おく内科・在宅クリニック)とZOOMでお話し、翌週にはおく内科に行ってKISA2隊に参加が決まりました。自分でもこの時の行動力には驚いています。
私は元々、いざという時のために力を蓄えておこうと考えていて、7割生活支持者なのです。それなのに、その時だけは「もうこれ絶対やりたい」と思って、超アクティブな行動をしていました。
去年(2022年)1年間は7割どころか、完全オーバーの15割ぐらい行動を起こしていたと思います。
自分自身のコロナ罹患から生まれたオンライン診療「電脳KISA2隊」
当初は遊撃隊(往診担当)でしたが、第6波の影響で依頼件数が増えてきていた2022年の1月、自分自身が新型コロナウイルスに感染してしまいました。
幸い症状は軽かったのですが往診に行けなくなってしまったので、仕方なく自宅から患者さんに電話で診察することになり、それが後の「電脳KISA2隊」の始まりとなりました。
急にスタートした体制だったので、不便なところや不都合なことを毎日洗い出してブラッシュアップするという作業を奥先生と地道に続け、2月にはオンライン診療の仕組みを導入、処方箋を出してから薬が患者さんに届くまでのスムーズな方法を確立することができました。
そして、電脳隊として新たな先生方も加わってくださり、そのおかげで診療効率は格段に向上し、たくさんの患者さんの初診・継続フォローを安全に行うことができました。
患者さんに寄り添うことで、患者さんの心と限られた医療のリソース、どちらも守ることができる
オンライン診療での私の役割は、往診部隊が診察した翌日、もう一度薬の使い方や、これから起こりうる経過を説明することです。オンライン診療の難しさですが、初めて診察する方ばかりで詳細な情報を把握しにくい状況のため、症状について過小評価しないように気をつけて丁寧に診察しました。
同時に、患者さんの不安を取り除く心のケアにも力を入れました。体がしんどい中で医師の訪問を受けても、ほっとする反面、緊張と興奮も相まって、往診の医師に言われたことをあまり覚えてないんですよね。
だから、その翌日に私がオンラインで診察する時は「昨日、先生はなんて言ってましたか?」とまず確認します。曖昧だった場合は「それは、こういう意味なんですよ」「置いていた薬はこうやって使うんですよ」とフォローして、しっかり時間をかけて説明します。
患者さんに対して「うちもコロナで一家全滅、療養中です。一緒に頑張りましょう!」という言葉をかけていたのですが、これが一番効いたように思います。
こうして患者さんに寄り添うことで、患者さんが頻回に救急車を呼んだり、保健所に電話する回数を減らせると思います。その結果、限られた医療リソースを守られることになりますから、電脳KISA2隊は患者さんと医療従事者、どちらの役にも立つ存在だという自負で動いていました。
困難な状況を乗り越えて深まった、家族と仲間との絆
コロナ第6波でオンライン診療の体制を作り上げ、なんとか電脳KISA2隊を軌道に乗せることができました。
その後の第7波は非常に忙しかったものの、患者さんのみならず・往診チームの先生方のお役に立っている実感が得られましたし、第8波は「有事再診」を取り入れたので対応が随分楽になりました。
とはいえ、タイミングによっては目が回るほど忙しい時期もありましたので、家族の力を借りながら乗り切れたことに感謝の気持ちでいっぱいです。また、活動を通じてKISA2隊の素敵な方にたくさん出会えたことは、とても大きな収穫でした。
これからも、仲間のみなさんと一緒に何か楽しいことができたら嬉しいです。また、日本中のKISA2隊の方と集まって、コロナの事だけではなく普段されていることのお話を伺ってみたいです。
KISA2隊の仲間からメッセージ
中川先生は身体の事だけでなく、心まで寄り添って下さる、とても素敵な医師です。
コロナピーク時には本業の休憩時間、休暇日はフルでKISA2隊の医師として診察されていました。
中川先生も子育てされながら、本業もありKISA2もされておられ多忙な中、患者様はもちろんのこと、私たちの事もいつも気にして下さっていました。私たち看護師からの相談も気軽に聞いて下さり、私たちの後ろには中川先生が居て下さっているとすごく安心感がありました。
子供から高齢の方まで幅広く診察され、後日フォローのお電話をすると中川先生に心から感謝されている方が多くいらっしゃいました。素敵な先生と一緒にお仕事出来たことを誇りに思います。
中川先生は、ご自分がコロナになった経験から患者さんに温かいお声掛けをされ、勇気づけておられました。私がコロナになったときに「無理をしないように。」と優しくお声がけいただいたことを覚えています。
そのあとからは、私自身もコロナの経験を患者さんに話しフォローしていくことで、患者さんにより身近な対応ができるようになったと思います。宮川さんやその時のクラスターチームのメンバーに迷惑をかけてしまった、という気持ちはありましたが、中川先生のお言葉が心の支えになっていました。
また、中川先生には、私が患者さんの受けつけ時点やフォロー中で判断に迷ったときに相談にのってくださり、まるで病院で働いているときの病棟担当の先生のように相談を受けてくださり解決してくださりました。ご自分が診察していない患者さんのことでも相談に乗ってくださり、あの忙しい時期を乗り越えることができたのも先生がいてくださったからだと思います。
プレコンセプションケアやワクチン教育に力を入れていきたい
最近、依頼を頂いて丹波市の教育委員になりました。自分自身も子育て中ですので、子供の成長や教育にはとても興味があり、ぜひやらせてください、とお引き受けしました。
個人的なテーマとして、プレコンセプションケアに力を入れていきたいと考えています。プレコンセプションケアとは、将来の妊娠に備えて、女の子たちやカップルになるであろう子どもたちに対して、生理や心身の発達、生殖系の話を段階を追って話をしていくことです。
子宮頸がんワクチンを「受けましょう」だけではなくて、なぜ受けないといけないのかを男の子にも女の子に説明したり。クリニックに来る子ども達にも、ずっと説明し続けてこの数年経つのですが、受けてくれる人がじわじわ増えてきたので、少しずつ広がってきているかなと感しています。
中川先生、本日はありがとうございました!
左から:インタビュアー増井、久保田医師、中川医師
施設名: 中川内科医院
所在地: 〒669-3131 兵庫県丹波市山南町谷川2198
電話: 0795-77-0007
FAX: 0795-77-1008
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