大阪市鶴見区で地域に根ざした介護事業を運営している金児さん。
KISA2隊との出会いをきっかけに、クラスター支援チームの一員となり支援をする中で、介護施設における平時からの感染対策の必要性をより一層感じるようになったといいます。
1人でも多くの介護職がリーダーシップを発揮し、現場での対応力を高めることができるよう、試行錯誤して出来上がった革新的な学習ツール「感染クラスター8」や、介護職への想いについてお話しを伺いました。
病院にて理学療法士として勤務、訪問看護ステーションやクリニックでの様々な経験を経て株式会社familinkを設立。通所介護事業から始まり、現在は訪問看護ステーションなど3拠点6つのサービスを展開。「地域で暮らす全ての人に自分らしく過ごしてもらいたい」をモットーに、講演会や地域の勉強会の運営など様々な分野で活躍。
クラスター支援の現場での気づき – 医療と介護のギャップを埋める
私が「感染クラスター8」に関わることになったきっかけは、介護保険事業を行っている地域で(大阪市鶴見区)、新型コロナウイルスに罹患した患者さんの在宅医療に携わる医師の奥先生と出会ったことです。
奥先生は高齢者福祉施設(以下、”施設”と省略)のクラスター支援部隊としても活躍されていたのですが、私の経歴に興味を持ち、「金児さんもぜひ一緒にやろう!」と声をかけてくださったのです。
柱合会議の開催される熊本へと向かう 左から:横木さん、金子さん、金児さん、奥先生
クラスター支援の現場に入ってすぐ、医療職と介護職の間に大きなギャップがあることに気づきました。保健所などの医療職は「0コロナ」を目指し厳しい基準を求めますが、介護現場では完全な対応が難しい場合が多いのです。
そもそものベースとして感染対策に関する知識が不十分なスタッフも多く、感染者さんの対応をすること自体が非常に強いストレスです。施設によってはパートスタッフも多く在籍し、言語や文化が違う外国人スタッフも在籍することも大きな要因と言えます。
医療職の方から見ると、介護現場で出来ていないことや、不十分なことがたくさんあると思います。しかし、上記のように現場には現場の事情があり、それを理解した上で現実的なアドバイスをしないと、スタッフもうまく受け入れて実行できないのです。有事に実行できない正論を押し付けることは現場にとってストレスでしかありません。
私はKISA2隊の中ではクラスターが発生した施設の初期ヒアリングを担当していましたが、最初は空振りしまくってましたね。私は施設で起きていることを十分に想像できていなかったんです。「今、何人陽性なってますか?」「レッドゾーンってどんな感じになってますか?」とか。
今思えば、パニック状態の現場にいる職員さんに、いきなり電話で見たこともない人が質問しまくっても先方の負担感を増やすだけで、状況の改善には繋がらないですよね。
大阪市保健所にてクラスター対応の講演をする金児さん
この状況を改善するためには、クラスターが発生した時に緊急介入するだけでは不十分で、平時からギャップを埋めるための研修が必要だと感じました。そこで、二人三脚で支援をさせていただいていた大阪市保健所に「振り返り支援」を行う事を提案させていただきました。
振り返り支援ではクラスター振り返りシートを活用し当時の状況を思い出しながら、できたこと・できなかったことについてブレインストーミングを行います。「あの時どういうことをすればよかったのかな?」「あの時、こういう観点で見てたらもっとこんな風にできたね」このようなスタッフ自身の振り返り・気づきが次に繋がっていきます。
振り返り支援の影響だけではもちろんありませんが、2022年年末から2023年年始における第8波の時には大阪の多くの施設において対策が強化されたと見られ、施設クラスターの発生・拡大に改善の兆しを感じました。
新しい支援の形を模索して – 体験型ゲーム「感染クラスター8」の導入
その後、2023年5月からコロナが5類に移行することが決まり、大阪市のコロナ対応を担っていた大阪市保健所から地域の保健福祉センターに対応が戻されることになりました。5類移行後はこれまでのような、KISA2隊のクラスター支援チームによる手厚い伴走型支援が難しくなることが予測され、体制の変更が必要となります。
施設に個別訪問することが叶わない場合も想定されるため、地域や施設において、自分たちで研修や学びの機会を作り、施設が自助の力で問題を乗り越えていけるような体制へと変化することを目指しました。
こうして生まれたのが「感染クラスター8」です。
ゲームは、未知の感染症が発生した介護施設を舞台として進行し、困難な状況やトラブルが次々と参加者に降りかかります。そんな中、1人でも多くの利用者・スタッフを守るため、4人1組のチームになって全員で知恵を出し合う内容となっています。
今までKISA2隊が行ってきたクラスター支援の内容を一般化し、ゲームを通して模擬体験することで、現場の人たちが有事に対する視点を養えるようにしたのです。
品質を追求し、議論に熱が入るプロジェクトメンバー
座学で講義を受けるだけだと、なぜそうなるのか・なぜそう行動するのか、自分で考える機会が乏しくなりますが、ゲームにすることで能動的に学習し、自分たちで問題を解決する力を養うことができるようになります。
現場の悲しみを忘れず、次の世代に学びを伝えたい
クラスター支援を通じ、施設スタッフの苦悩や、入居者さん・ご家族の悲しみを幾度となく目の当たりにしてきました。「感染症でつらい思いをする人を少しでも減らしていきたい」「大阪のクラスター支援で得た知見を風化させず、未来に届けていくのは私たちの使命だ」という強い想いから、2年という時間をかけてゲームの開発に取り組みました。
感染クラスター8の体験会にて
感染クラスター8は、クラスターの発生時の感染制御の知識が得られるのはもちろんですが、チームビルディングが図られる点も重要なポイントです。ゲームを一緒に進行することで仲間の考え方を知ることができ、有事にも対応できる柔軟性を持ったチームを作ることに貢献すると考えています。
有事を乗り越えるにはきらりと輝く介護人材の育成が不可欠だ
感染に対する知識はもちろん大切ですが、有事にみんなが力を合わせることができたり、みんなで乗り越えよう!というムードを作れる施設は非常に強い。そんな、平時からチームワークを良くしたり、有事に対応できる柔軟性をもったチームを作るための研修、クラスター&有事ケアクリエイター講座(通称 ユークリ講座)の準備も別途進めています。
感染クラスター8と併せて受講していただくことで、介護職が自分たちの強みを理解し、介護職がプライドを持って働けるようになることを目指していますので、これからの展開にもぜひご注目ください!
金児さんが経営する施設にて、スタッフさんとの一コマ
金児さん、本日はありがとうございました!
施設名: 株式会社familink
所在地: 〒538-0053 大阪府大阪市鶴見区鶴見4丁目10-18
電話: 06-6923-9225
HP: https://familink.jp/